日本舞踊の可能性 vol.1 鷺娘
日本舞踊の可能性vol.1 第1部 鷺娘 より
  撮影:瀬戸秀美

日本舞踊の可能性公演のこれまで

2020年日本舞踊の可能性vol.3プログラムより 

 「日本舞踊の可能性」シリーズは、2017年に海外で初演した二作品を「日本でも披露したい」という蘭黄の強い思いから、2018年に始まった。 きっかけとなった作品は、ウクライナ・キエフの史跡「黄金の門」で初演した『展覧会の絵』。木曽真奈美のピアノ生演奏で、キエフ・バレエ学校芸術監督の寺田宜弘と同学校の生徒達も共演した舞台だった。

 もう一作は、インドのビエンナーレでの『鷺娘』。歌舞伎舞踊の衣裳の変化を映像で見せるという試みで、母・蘭景、祖母・藤子が衣裳を付けている映像とともに蘭黄は素踊り(衣裳を付けず、紋付袴で踊る)で踊った。 どちらも現地の方に想像以上に絶賛された。ピアノ演奏でバレエ・ダンサーと踊っても、「日本舞踊」は認識され、「日本舞踊」ならではの表現法でドラマが伝わったことに手応えを感じた。『鷺娘』では、衣裳付けの華やかさと、素踊りの妙味を同時にアピールできた。

 この二作品を日本で上演したいーそれは蘭黄だけでなく、共演者やスタッフも同じ気持ちだった。ほぼ毎年行っていた個人リサイタル「蘭黄の会」で上演することも考えたが、しかし微妙に趣旨が異なる。そこで別企画として上演することにした。
 「日本舞踊にはまだまだ思いもよらない様々な可能性がある」と感じたのは、やはり2017年に文化庁文化交流使として10ケ国14都市で公演、レクチャーなどの活動を通してだった。日本舞踊では当然の、老若男女、さらに自然描写などの「踊り分け」、あるいは扇子や手ぬぐいで様々なモノや情景を表現する「見立て」などに海外の人たちは強い興味を示した。日本舞踊の根源的な力をあらためて感じた。それらの思いをそのままタイトルに込めた。「日本舞踊の可能性」公演の誕生だ。
 「先人が築き上げた古典の力。その潜在力を見出し、感じていただきたい、という思いから本公演を立ち上げました」と、当日のプログラムに蘭黄は書いている。

 2015、17年に東京で上演した『信長―SAMURAI―』のロシア・ツアーが行われたのは2019年1月。ロシアのバレエ・ダンサー、ファルフ・ルジマトフと岩田守弘と蘭黄が、琴とお囃子の生演奏で踊った。真冬のサンクトペテルブルク、ウランウデ、モスクワでの2回ずつの公演は、全て満席の観客からの大きな拍手とスタンディングオベーションで幕を閉じた。出演者だけでなくスタッフも「凱旋公演」への思いが募った。Vol.2の演目は、こうして決まった。

 Vol.3の『GOSAMARU―勇者たちの物語―』は、長年の蘭黄の夢を叶える企画だった。生のオーケストラ演奏でのオリジナル作品の上演。となると会場は東京文化会館、指揮者は藤岡幸夫、出演は五耀會、紅一点の役は新国立劇場バレエ団元プリンシパルの長田佳世、コロスには可西舞踊研究所、狂言回しとして累累。スタッフも含め、すべて理想的な配陣。曲目も決まり、振付予定も組み、「さあ、いよいよ」の段階。だが、感染症が蔓延、延期の決断を下した。さらに秋に企画していた京都での『信長』公演も中止にした。途端に蘭黄は、「放心」状態となった。
日本舞踊の可能性 vol.2 信長ーSAMURAIー
日本舞踊の可能性vol.2 第2部 信長ーSAMURAIー より
​撮影:瀬戸秀美
日本舞踊の可能性 vol.3 禍神
日本舞踊の可能性vol3 第2部 禍神 より
​撮影:瀬戸秀美
 だが、お弟子さんとのリモート稽古のため、自宅の舞台での踊りの映像を自撮りしているうちに、youtubeでの配信を思い立ち、それが日課となった。劇場で踊らないといけないのではないか、公演をしないといけないのではないか、と思い始めたのは8月半ば。まずは会場を予約した。かねがね再演したかった『禍神』、女性チームの『徒用心』というプログラムはすぐに決まった。スタッフ含め、出演者全員が参加可能となり、新たなVol.3準備が始まった。
 10年前、その時の身体で創った『禍神』は、かなりハードな作品だ。「身体の衰えを受け入れつつ、しかし表現に、10年の蓄積である深みが出せたら」と蘭黄は語る。
 『徒用心』の演奏は、スタジオ録音済み。と、安心していたが、彦郎と播土十郎にはセリフがあった。もちろん女性陣でも対応できるが、やはり違和感がある。悩んだ末にオリジナルキャストの花柳基と山村友五郎にお願いして、スタジオで声を録音してもらった(ご協力に大感謝!と蘭黄)。迷ったのは衣裳。4人は男性役、だが「虫」役や「中傷の歌」では全員コロスとして参加する。「女性ならではの華やかさがあり、しかも男性役が受け入れられ、さらに動きやすい衣裳」。蘭黄のアイディアで決めた衣裳。これが舞台でどう映えるのか楽しみだ。
 日本舞踊のさらなる可能性と、新たな魅力を感じていただけたらー出演者一同の思いである。         
 桜井多佳子
2020年11月3日 浅草公会堂